中高年のおしっこの悩み
中高年男女の排尿障害について
尿失禁は泌尿器科専門醫を受診すれば80%はよくなる
「尿が近い」「夜間にトイレに起きる」「尿がもれる」「尿の勢いがない」「時間がかかる」など、排尿の問題で悩んでいる人はたくさんいます。
日本排尿機能學會の調査によると、夜間頻尿がある人は4,500萬人、晝間頻尿は3,300萬人、おしっこに勢いがない人は1,700萬人、おしっこがもれる人は1,000萬人います。いずれの癥狀も年をとるにしたがって増え、60歳以上では78%が何らかの排尿の問題を抱えていることが報告されています。

【尿失禁(尿もれ)】
尿失禁は自分の意思に反してもれることをいいます。どちらかというと女性に多いですが、男性にも結構ある癥狀です。愛知県の健康な女性職員への調査では25%が尿もれを経験していましたが、醫療機関を受診したのは8%、治療を受けた人は5%でした。みなさん困っているのに、なぜ受診しないのかとたずねると、「恥ずかしい」「年だから仕方ない」「どこを受診すればいいか分からない」と答えます。
尿失禁は泌尿器科専門醫を受診すれば80%はよくなりますので、早めに受診されることをおすすめします。治療は、骨盤底筋體操や膀胱訓練などの行動療法、膀胱の収縮を抑える薬などを用いる薬物療法、手術による外科的療法があります。
ただ、尿失禁は必ず治療しなければならないわけではありません。例えば、74歳でせきをすると尿もれする女性の例では、私が「手術すれば治るよ」とすすめても、「パンツをかえればいいんだから手術しなくてもいい」と言うので手術はしていません。一方、45歳でテニスをするときだけ尿がもれるという女性は、日常生活ではなんの問題もありませんが手術を希望しました。本人の困り具合と治療法をてんびんにかけて決めてもらえればと思います。
【夜間頻尿】
就寢してから排尿のために3回以上起きる人は、60代で20%、80代で50%ととなり、年齢とともに多くなります。夜間頻尿は前立腺肥大癥や過活動膀胱などの尿路の病気によっても起こりますが、水分のとりすぎ、心不全や高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸癥候群など基礎疾患がある人にもみられる癥狀です。
また、夜間頻尿が生存率に関係するというデータがスウェーデンから出ています。70歳以上の男性で、夜間に3回以上起きる人はそうでない人に比べ生存率が低かったのです。夜間頻尿そのものが命を縮めるのでなく、夜間頻尿のある高齢者は心臓病や糖尿病など基礎疾患があるためといえます。
治療は、もともとの原因を調べて、まずは生活指導をし、治らない場合は薬物治療をします。
【前立腺肥大癥】
前立腺は男性の膀胱の出口にある臓器で、前立腺が大きくなると尿道を圧迫し、尿が出にくかったり、尿が近いなどの癥狀が出ます。40代ごろから増え始め、70代で80%、80代では85%をしめます。そのうちの4人に1人は治療が必要です。
治療は重癥度によって違います。軽い場合は薬物療法、血尿や尿路感染など合併癥がある場合は外科的治療を行います。
排尿の問題は命にかかわるものではありませんが、さまざまな排尿の癥狀があるとQOL(生活の質)を低下させます。おしっこの問題を解決して、はつらつとした人生を送ってもらえればと思います。
監修

名古屋大學大學院
醫學系研究科泌尿器科學教授
後藤 百萬 氏(ごとう?ももかず)
三重大學醫學部卒業。専門は泌尿器科。名古屋大學大學院、カナダのマクギル大學、碧南市民病院を経て、現在に至る。排尿障害、女性泌尿器科疾患、腹腔鏡手術を専門とする。